某年1月18日
眠れず、苦しい夜だった。午前のうちに帰るつもりが、なかなか起き上がれずに遅くなってしまった。掃除をして、家を出る。具合の悪そうな猫を眺めながら、読書したりおやつをつまんだり。夕方、家を出て久し振りに逢う人のところへ。たわし。旬野菜の天婦羅、茄子の白和え、出汁巻き卵、平目のお刺身、盛り蕎麦(わたしは蕎麦アレルギー)。いつのまにか、わたしはお刺身が食べられるようになった。10年の月日が変えたもの、変えなかったもの。わたしたちはずっと変わらないね。心中寸前のあの子を何とか引き留めたくて必死で電話を繋いだあの夏の、あの部屋で、今夜も変わらずわたしたちは交わる。過去と今も交わる。わたしたちの心はいつまで経っても歳をとらないで、この愛をずっとずっと、繰り返していくのでしょう。
某年6月28日
軽井沢。2年前に流産した日にも、こうして軽井沢に出かけた。軽井沢、というとわたしはそれを思い出し、麦わら帽子と黒いワンピース、美術館のあの息苦しいほどの緑の中にタイムスリップするけれど、夫はきっと、憶えていない。丸山珈琲でお茶をして、帰る途中の車からお腹が痛かったこと。いつも、痛みはわたししか知らない。
某年7月11日
早くに長野を出て、名駅であなたと待ち合わせ。10年も一緒にいて、はじめてこんなことをするからわたしたちは面白い。予約してくれていたお店でおいしいお肉。呑むと食べないあなたと、そもそも食べる量が少ないわたしはゆっくりと、ただ一緒においしいものをつまむ時間を味わう。mameを試着したのを見てもらって、迷うだけ迷って地下鉄に乗る。あなたの視線。ON READINGに一緒に来たかった。一緒に本を5冊買って、読んだら貸すね、と高校生のような約束をする。寺田寅彦と岡倉天心。お店を出たところでマスクを外されて不意打ちのキス。夏の交差点。蘇鉄。斜め歩きでくだる急勾配の坂道。束の間の夏だ。sahan、インドの古い黒板。豆を落とす道具。スターバックスでひと休み、フラペチーノを頼んだあなた、おれが可愛いもの頼んじゃったみたいな感じで恥ずかしいなって。わたしは甘い飲み物が苦手。
某年1月26日
死にたい死にたいと思っていたら、夢にさとみと雪子と橋口くんが出てきた。地下鉄か何かの駅で、通勤途中のわたしたちがばったり遭う夢。おー、何してんの?間に合う?みたいな会話。誰がどこに勤めているのかも、夢の中では関係ないから面白い。夢の中のわたしは(現実もさして変わらないけれど)チンピラみたいなてろてろのシャツを着て、ビーサンなんかをつっかけて朝からビールを片手に駅をうろついているわけだけれども、どうしてそんななりの人間が通勤途中だという設定でまかり通るのか、これまた夢なのでそれさえ関係なくてただただよい。死にたかった5年前、救ってくれた人たちが、こうして夢に出てくる。また、止めに来てくれたのだろうな、と、本人たちにこそ伝えないものの胸の内でそっと感謝する。こっちに来れば自由だぜ!と、さとみも雪子もきっと言ってる。
いくつか抜き出した日記。近頃の日記は5月を最後に止まっている。めぐに、最近日記書いていないよ、と話したら、それは大変、と言われた。
そうだ、大変なのだ。
どうにか抜け出そう、と思いながらこれを書いている。